
安全在庫とは
安全在庫とは、需要や補充リードタイムのばらつきからサービスを守るために、見込み需要に加えて持っておく追加の数量です。通常の消費に使うものではありません。消費が平均を上回った日や、仕入先の納入が遅れた日のためのものです。
安全在庫がないと、発注点はリードタイム中の平均消費しか賄えず、およそ半分のサイクルで納品が届く前に在庫が尽きます。正しい問いは「余分にどれだけ持ちたいか」ではなく、「どのサービスレベルを提供したいか」です。
安全在庫の計算式
リードタイムが安定していて需要だけがばらつく場合、基本の式は次のとおりです。
SS = z × σd × √L
- z:サービスレベルの係数(正規分布)。90% = 1.282、95% = 1.645、97.5% = 1.960、99% = 2.326、99.9% = 3.090。
- σd:期間あたりの需要の標準偏差(日あたり、週あたり)。
- L:リードタイム。σdと同じ時間単位にします。
仕入先のリードタイムも変動する場合は、次の式を使います。
SS = z × √( L × σd² + d² × σL² )
dは期間あたりの平均需要、σLはリードタイムの標準偏差です。発注点はROP = d × L + SSになります。統計の基礎は正規分布と標準偏差にあります。
数値例:需要がばらつく場合
仮の例です。ある部品の平均需要は1日200個、標準偏差は1日40個。仕入先は9日で納品し、日数のばらつきはありません。サービスレベルの目標は95%です。
- 95%のz = 1.645。
- √L = √9 = 3。
- SS = 1.645 × 40 × 3 = 197.4、つまり198個(切り上げ)。
- リードタイム中の需要:200 × 9 = 1,800。
- 発注点:1,800 + 198 = 1,998個。
サービスレベルを上げるコストは急速に増えます。
| サービスレベル | z | 安全在庫 | 発注点 |
|---|---|---|---|
| 90% | 1.282 | 154 | 1,954 |
| 95% | 1.645 | 198 | 1,998 |
| 97.5% | 1.960 | 236 | 2,036 |
| 99% | 2.326 | 280 | 2,080 |
| 99.9% | 3.090 | 371 | 2,171 |
95%から99.9%まででサービスレベルは4.9ポイント上がりますが、安全在庫はほぼ2倍(198から371)になります。追加の1ポイントは前の1ポイントより高くつきます。そのためサービスレベルは全品目に一律に適用せず、品目クラスごとに決めます。
リードタイムもばらつく場合
同じ品目で、平均リードタイムが9日、標準偏差が2日(σL = 2)とします。d = 200、σd = 40、95%は変えません。
- 需要の項:L × σd² = 9 × 1,600 = 14,400。
- リードタイムの項:d² × σL² = 40,000 × 4 = 160,000。
- 合計:174,400、平方根は約417.6。
- SS = 1.645 × 417.6 ≈ 687個。
- 発注点:1,800 + 687 = 2,487個。
リードタイムの不確実性(160,000)は、需要の不確実性(14,400)の10倍以上の重みがあります。需要が変わらないまま安全在庫は198から687になりました。在庫を積み増すより、仕入先に働きかけるほうが効くことが多いのはこのためです。
安全在庫を減らす要因
| 打ち手 | 例での効果 |
|---|---|
| リードタイムを9日から4日に短縮 | SS = 1.645 × 40 × 2 = 131.6、つまり132(−33%) |
| 仕入先のリードタイムを安定させる(σLを2から0へ) | SSは687から198へ(−71%) |
| 需要のばらつきを減らす(σdを40から30へ) | SS = 1.645 × 30 × 3 = 148.1、つまり149 |
| Cクラス品目のサービス目標を下げる | 欠品の損失が小さい品目で拘束資本を減らせる |
リードタイムが短くなると、在庫はLの平方根に応じて減り、予測が良くなればσdが小さくなります。ばらつきがサプライチェーンの上流へ増幅される仕組みはブルウィップ効果、生産のリードタイムの短縮方法も合わせてご覧ください。
日々の運用での使い方
- ABC分析で品目を分類し、クラスごとにサービスレベルを決めます。例:Aは98%、Cは90%。
- σdは直近の実績データ(例:12〜26週)から、リードタイムと同じ時間単位で計算します。
- 仕入先ごとに実際のリードタイム(発注日から受入日まで)を、平均と標準偏差で測ります。
- SSを計算してリードタイム中の消費に加え、MRPのように発注点をシステムに登録します。
- 定期発注方式(連続でない場合)では、Lの代わりにL + Rを使います。Rは発注間隔です。
- 四半期ごとに再計算し、在庫回転率と欠品を追跡します。
- 経済的発注量と組み合わせます。補充する量は発注量が決め、守る量はSSが決めます。
よくある間違いと限界
- すべての品目に「X日分」という一律のルールを使う。安定した品目と不規則な品目が同じ日数になり、前者は積み上がり、後者は欠品します。
- 時間単位を混ぜる。日次のσdに週単位のリードタイムを組み合わせると誤った結果になります。先に揃えてください。
- ばらつきではなく予測の平均を使う。重要なのは誤差やばらつきで、平均水準ではありません。
- 全品目に正規分布を仮定する。散発的な需要や大きく偏った需要には別の手法が必要です。
- 実際のリードタイムを無視する。仕入先の約束した日数が、実測値になることはまれです。
- 棚卸を怠る。システム上の残高が誤っていると計算は無意味になります。循環棚卸を続けてください。
次の一歩:Aクラスの品目を5つ選び、仕入先の直近6か月の実際のリードタイムを測り、完全な式で安全在庫を再計算します。現在システムにある値と比べてください。どちらの方向の差も、資本がどこに拘束され、欠品リスクがどこに隠れているかを示します。この記事の数値は説明用です。ご自身のデータを使ってください。
よくある質問
安全在庫はどう計算しますか?
需要がばらつきリードタイムが一定なら SS = z × σd × √L です。例では 1.645 × 40 × 3 = 197.4、つまりサービスレベル95%で198個です。
安全在庫と発注点の違いは何ですか?
安全在庫はばらつきへの備えです。発注点は補充を開始する水準で、ROP = リードタイム中の平均需要 + 安全在庫 です。
どのサービスレベルを使えばよいですか?
欠品のコストと在庫保有のコストで決まります。重要品目(A)では95〜99%、Cでは低めにする企業が多いです。品目ごとではなくクラスごとに決めます。
仕入先のリードタイムがばらつく場合は?
SS = z × √(L × σd² + d² × σL²) を使います。例ではσL = 2日で、安全在庫は198個から687個に増えます。
95%と99%のzはいくつですか?
95%ではz = 1.645、99%ではz = 2.326です。
安全在庫と最低在庫は同じですか?
実務では安全水準を「最低在庫」と呼ぶ企業が多くあります。勘で決めるより、ばらつきとサービスレベルから導くほうが適切です。
参考文献
- SILVER, E. A.; PYKE, D. F.; PETERSON, R. Inventory Management and Production Planning and Scheduling. Wiley.
- CHOPRA, S.; MEINDL, P. Supply Chain Management: Strategy, Planning, and Operation. Pearson.
- NAHMIAS, S. Production and Operations Analysis. McGraw-Hill/Irwin.
- HOPP, W. J.; SPEARMAN, M. L. Factory Physics. Long Grove: Waveland Press.
特記のない限り、参考文献は英語です。

